自然人発明者不在型AI生成成果を誰に帰属させるべきか

「法定原始取得主体」という制度案

前回は、「AIが作成した」という表示と、その成果物について誰が責任を負うかとは別問題であるとの私見を述べた。


生成AIは成果物を作成する手段にはなり得るが、それ自体が権利や責任を引き受ける主体となるわけではない。

この責任主体という視点を発明の権利帰属に当てはめると、次の問題が生じる。

人間の創作的な寄与を認定できない発明をAIが生成した場合、その成果を誰に帰属させるべきだろうか。現行法の枠組みでは、自然人である発明者を認定できない限り、特許を受ける権利の発生及び帰属を基礎付ける規定がなく、そのままでは権利主体を定めることは困難であると考えられる。

以下は現行法の解釈を述べるものではない。また、自然人である発明者が存在しないAI生成成果に対して、当然に排他的保護を認めるべきであると主張するものでもない。

本稿では、仮に将来このような成果について何らかの排他的保護制度を設けるとすれば、どのような権利取得主体を想定し得るかについて、私見を述べたい。

現行特許法は自然人である発明者を前提とする

日本の現行特許法は、自然人である発明者を起点として、特許を受ける権利の発生及び帰属を構成している。

2025年1月30日の知的財産高等裁判所のDABUS判決も、現行特許法上、特許を受ける権利は原則として自然人である発明者に発生し、一定の職務発明について使用者等へ原始帰属することはあっても、自然人発明者を介さずにAIシステムの所有者や利用者へ権利を発生させる規定はないとの判断を示した。

AIシステムを所有又は使用しているという理由だけで、AIが生成した成果について特許を受ける権利を取得できるわけではない。

他方、同判決は、AIが生成した技術的成果を将来どのように扱うべきかについて、立法政策としての検討の余地を否定したものではない。

AI支援発明とは区別する必要がある

AIが利用された発明のすべてについて、自然人発明者が存在しないわけではない。

人が具体的な技術的解決思想を提示し、それをプロンプト等に具体化した場合や、AIの複数の出力を技術的洞察に基づいて選択、組合せ又は修正した場合には、その人が発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したと評価される可能性がある。

追加実験や修正によって初めて技術的思想が完成した場合も同様である。

これらは通常のAI支援発明として、従来の発明者認定及び職務発明制度によって処理すべきである。

本稿が対象とするのは、生成記録その他の客観的資料に基づいても、請求項に係る技術的特徴部分の具体化に創作的に寄与した自然人が存在しないと認められる技術的成果である。

以下では、これを「自然人発明者不在型AI生成成果」と呼ぶ。

単に記録が不足しているため発明者を確認できない場合まで、この類型に含めるべきではない。記録を残さなかった者が有利になる制度は、発明者の隠蔽や職務発明制度の回避を招くからである。

そもそも排他的保護が必要か

権利を誰に帰属させるかを考える前に、自然人発明者不在型AI生成成果に排他的保護を設ける必要があるかを検討しなければならない。

AI自体を発明へ動機付ける必要はない。

しかし、AIが出力した技術的成果について、人又は組織が技術的評価、追加研究、規制対応、製品化及び出願を行うには、相応の人的・経済的コストを要する。これらの投資を行った者に対し、一定の要件の下で排他的権利を取得し得る制度的可能性を認めることには、技術開発及び技術情報の公開を促進するという観点から一定の合理性があり得る。

他方、AIが低コストで大量の技術的成果を生成できるようになれば、通常の発明と同じ内容及び期間の特許権を付与することにより、出願の急増、審査負担、権利集中やパテント・シケットを招くおそれもある。

したがって、選択肢は通常の特許権だけではない。

保護しないこと、保護期間又は権利範囲を限定すること、通常の特許権とは異なる登録制度を設けることなども含めて検討する必要がある。

本稿で検討するのは、仮に何らかの排他的保護を設けるとした場合に、その権利取得主体をどのように構成すべきかという点である。

AIシステムの所有者でも、単なる入力者でもない

AI生成成果について権利を設けるとしても、AIシステムの所有者へ当然に帰属させることには疑問がある。

汎用的なAIシステムの所有又は提供と、個別の技術的成果を権利化する行為との間には、大きな隔たりがあるからである。

また、プロンプトを入力した者へ当然に帰属させることも適切ではない。

組織の方針や上司の具体的な指示に従って、従業者が単にプロンプトを入力しただけであり、その入力、選択又は修正が発明の特徴的部分への創作的寄与を含まない場合、その者は補助的作業を行ったにすぎない。

このような観点から考えると、一定の客観的要件を満たした自然人又は法人を、法律上の権利取得主体として位置付ける制度を構想する余地がある。

法定原始取得主体という考え方

本稿では、このような制度上の権利取得主体を、便宜上「法定原始取得主体」と呼ぶ。

法定原始取得主体とは、自然人発明者不在型AI生成成果について、法律が定める要件を満たしたことにより、特許を受ける権利又はこれに相当する権利を直接取得する主体をいう。

法定原始取得主体という考え方は、発明者と認定されるほどの創作的寄与は認められないとしても、当該成果の技術的意義を理解し、権利化を検討するに値する技術的成果であるかを評価した上で、出願について責任ある判断を行った者には、一定の法的地位を認め得るとの考え方に基づくものである。

仮にこのような制度を設けるとすれば、権利取得要件の候補として、例えば次のような事項を検討することが考えられる。

  • 当該成果の生成に係る研究開発又はAI利用について適法な権限を有していたこと
  • 当該成果の技術的内容及び作用効果を理解していること
  • 特定の成果を権利化候補として選択したこと
  • 当該成果について、先行技術との関係を含む合理的な技術評価を行ったこと
  • 自然人による創作的寄与の有無を調査したこと
  • 権限ある意思決定により出願を決定したこと
  • AIの関与、自然人の寄与及び権限関係について必要な申告を行うこと
  • 生成、選択、修正、評価及び出願決定の過程を記録し、保存すること

ここで重要なのは、当事者が単に「自己の成果として採択した」と表明しただけで、当然に権利が発生する制度を想定しているわけではないという点である。

成果の選択、合理的な技術評価及び権限ある出願決定等を、法律が定める権利取得要件を構成する事実として位置付け、所定の要件を満たした主体に、特許を受ける権利又はこれに相当する権利を原始的に帰属させる制度を構想することが考えられる。1

組織とプロンプト入力者

組織が研究開発を企画し、その権限と費用の下でAIを利用し、生成成果を技術的に評価した上で法人として出願を決定した場合には、その法人を法定原始取得主体とすることが考えられる。

単にプロンプトを入力した従業者は、その行為に創作的寄与がない限り、発明者にも法定原始取得主体にもならない。

ただし、従業者が独自の技術的着想をプロンプトに組み込み、AI出力を技術的洞察に基づいて修正又は発展させた場合は別である。

その場合は自然人の発明者が存在するAI支援発明であり、通常の発明者及び職務発明制度を適用すべきである。

企業が、従業者の発明者性や職務発明上の処遇を回避するために、通常のAI支援発明を自然人発明者不在型成果として扱うことを防ぐための制度的措置も、併せて検討する必要がある。

無権限取得者による出願

他人又は他組織が適法な権限の下で取得したAI生成成果を無断で入手し、第三者が先に出願した場合、その者を単に先願者として保護することは適切ではない。

このような場合には、現行法上の冒認出願に類似する「無資格出願」として扱う制度を設けることも考えられる。

無資格出願については、拒絶又は無効に加え、正当な法定原始取得主体への出願又は特許権の移転を認めることも選択肢となり得る。

誰が正当な主体であるかは、成果生成前から存在する契約、共同研究規程、勤務関係、委託関係、研究開発上の管理権限やAIサービスの利用権限等によって判断することになる。

一方、複数の主体が互いに独立して同一の成果を生成し、それぞれ法定要件を満たした場合には、先願主義を維持する余地がある。

したがって、無権限取得者による先取りは排除するが、独立した適格主体間の競合まで否定するものではない。

権利取得資格と制度固有の義務

法定原始取得主体に、AI生成成果に関するあらゆる責任を集中させるべきではない。

特許権者、発明の実施者、製造者、AIサービスの開発者又は提供者は、それぞれ異なる場合がある。製品事故、著作権侵害、個人情報、営業秘密その他の責任は、それぞれの法律に基づいて判断すべきである。

法定原始取得主体に対応させるべきなのは、特許制度に固有の義務である。

例えば、AIの関与及び自然人の寄与についての真実の申告、生成及び選択過程の記録保存、権限関係の説明、紛争時の証拠提出等である。

故意に自然人発明者を隠した場合や、権限関係を偽った場合、重要な記録を意図的に破棄した場合には、拒絶、無効、権利行使の制限その他の制裁を設けることも考えられる。

ただし、プロンプトやモデルに関する情報をすべて公衆に開示すると、営業秘密、個人情報及びセキュリティ上の問題が生じる。

公衆への表示、組織内部での記録保存、特許庁又は裁判所への秘密保持下での証拠提出は、それぞれ目的が異なるため、制度上も区別して設計する必要がある。

おわりに

AI生成成果の権利帰属については、AIシステムの所有者、利用者、開発者又はAIに発明を生成させるために必要な手配をした者へ帰属させる考え方など、様々な議論が既に存在する。

本稿で提示した制度案は、これらの議論を、個別成果についての適法な権限、技術的評価、権限ある出願決定及び制度固有の申告・記録保存義務という観点から再構成しようとするものである。

自然人の創作的寄与が認められる場合には、従来どおり発明者認定及び職務発明制度によって処理すべきである。

他方、そのような自然人が存在しないAI生成成果については、まず排他的保護そのものの必要性から検討する必要がある。

その上で、仮に何らかの排他的保護制度を設けるのであれば、AIを人間と同様の発明者として扱うのでも、AIシステムの所有又は単なる操作のみを理由として権利を帰属させるのでもなく、客観的要件及び制度固有の義務を満たした自然人又は法人を「法定原始取得主体」として位置付ける制度は、検討に値する選択肢の一つではないだろうか。

もっとも、本稿で提示した制度案についても、権利発生時期、共同研究との関係、優先権や権利移転との整合性、制度濫用防止の在り方など、更に検討すべき論点は少なくない。

  1. この権利の発生時点を、生成時、選択時、法定要件の充足時又は出願時のいずれとするかは、出願前の譲渡、優先権及び共同研究契約との関係を含め、別途検討を要する。
    ↩︎

統合版PDF
本稿を含む一連の議論を横断して再構成し、制度設計上の論点を追加した統合版を公開しました。
[自然人発明者不在型AI生成成果の権利帰属-「法定原始取得主体」という制度案-(PDF)]

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