AIは発明者になれるか?―DABUS事件が問いかけるもの
AIによる発明創作が現実のものとなりつつある。中でも注目を集めているのが、AI「DABUS(Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience)」による国際的な特許出願である。DABUSが創作したとされる発明について、複数の国で出願が行われ、各国の対応が分かれている1。
この問題を考える上で、まず日米における「発明者」の位置づけの違いに注目すべきである。
日本では、発明者の記載はあくまで方式的な記載事項とされており、仮に誤記があっても特許が無効となることはない2。一方、米国では発明者の記載は実質的な特許要件であり、誤った記載があると特許自体が無効とされる可能性がある。これは、発明に対する「誰が貢献したか」を重視する米国の制度の特徴を反映している3。
AIを発明者として認めるべきかという問題は、単に発明能力があるかどうかだけでは決められない。現在のAIには一定の創作能力があることは確かであるが、それだけでは法的に「発明者」としての地位を与えるべきという結論にはならない。
なぜなら、発明者という権利の享有主体としての地位を認めるということは、権利を与えるだけでなく、義務や責任も伴うべきからである。AIに対して権利を帰属させるとすれば、譲渡や相続、権利行使といった問題にも対応しなければならず、現行法制度の枠組みでは対応が困難である。
DABUS事件は、こうした法制度の限界を浮き彫りにした。今後、AIが関与する発明が増えていく中で、制度側がどこまで対応するかが問われる。AI単独の創作を認める制度に改めるのか、人間による関与を前提とした制度の中で運用で対応していくのか。議論は始まったばかりである4。
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(参考文献)
- 知財ぷりずむ 令和4年11月号
AIが発明者となり得るか~AI「DABUS」出願に対する米国CAFC判決~
https://www.jiii.or.jp/chizai-members/contents22/202211/202211_5.pdf ↩︎ - 東京地裁 令和6年5月16日(令和5年(行ウ)第5001号)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/981/092981_hanrei.pdf ↩︎ - 米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)Thaler v. Vidal, 43 F.4th 1207 (Fed. Cir. 2022)
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/21-2347.OPINION.8-5-2022_1988142.pdf ↩︎ - 産業構造審議会知的財産分科会 第51回特許制度小委員会
「AI技術の発達を踏まえた特許制度上の適切な対応」(令和7年1月17日)
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/tokkyo_shoi/document/51-shiryou/02.pdf ↩︎