所長メッセージ
弁理士 森脇 正志
私は、2002年3月に大手電機メーカーを退職し、森脇特許事務所(現、弁理士法人M&Partners)を設立しました。当事務所開設当時の目標は、知財部門を擁する国内企業を対象として、半導体プロセス要素技術などをベースとする技術的バックグラウンドと企業内弁理士としての法務及び知財実務の経験を最大限活用できる、「知的創造サイクルの構築」を後方から支援することを目指すものでした。この点については、現在でも他の多くの特許事務所と差別化できる点と考えています。
しかし、スタートアップ企業、中小企業など、独立した知的財産部門という組織を持たない企業体は、決して少なくありません。そのような会社に対して、知的財産部門の立ち上げを支援することもまた、重要な役割であることを認識するに至りました。自社技術を法的に保護し、活用すること。ブランドを確立し、経営を安定化させること。営業秘密を保護し、機密情報を保護すると共に万一の漏えいに対しても迅速な法的救済が受けられるようにすることは、企業の規模を問わず、共通の目標というべきと考えています。
当事務所は、会社の規模や業種を問わず、「知的創造サイクルの構築」を中長期の目標とあらゆる事業体を長期にわたりサポートすることを重要な役割と考え、活動してまいります。
大手企業様へのメッセージ
知的創造サイクルの構築
企業が持続的に発展していくために必要不可欠な仕組みの一つに、「知的創造サイクル」の構築というものがあげられます。知的創造サイクルとは研究開発への投資によって新たな発明を創出し、これを知的財産権として保護することで他社に先んじて独占的実施を確保したりライセンス収入を得たりすることによって収益を上げ、その一部をさらに研究開発へ投資するという、一連の仕組みのことを指します。
現在、多くの企業に「特許部」や「知的財産部」といった名称の部署が設けられ、日々、知財活動の一環として特許出願や商標出願などが行われていますが、実際に効果的な「知的創造サイクル」の仕組みを構築するのは、容易なことではありません。これにはいくつかの理由が考えられます。
発明提案書について
知財担当者の基本的な仕事の一つは、発明者が提出した「発明提案書」を検討し出願すべきか否かの判断を行った上で必要なものを特許事務所に依頼をする、いわば発明者と特許事務所とのパイプ役になることですが、私がよく知財担当者から受ける相談の一つに、有力特許になりうる「発明提案書」がなかなか提出されないというものがあります。
しかし、このことは、必ずしも発明者が発明をしない(或いはできない)ということを意味しません。研究開発の現場では様々な技術的課題が発生してはそれらを克服するということを日夜繰り返しているので、私が実際にヒアリングしてみると開発の現場には発明の種となる多くの有用なアイデアが多数埋もれていることが分かります。そのアイデアは、明らかに発明と認識できるものもあれば本人がまだ出願に値する発明であると認識していないものもあり様々ですが、とにかく多くの発明が眠っています。
現場の実態
ところが、知財担当者がいくら待っても、それらのアイデアは滅多に「発明提案書」の形となって知財部門に提出されることはありません。その理由を聞くと、発明者からは、日々の業務があまりにも忙しいために「発明提案書」を書く時間がないという声が上がります。これに対し、知財担当者からも、出願支援以外の他の業務が非常に忙しいので、そこまで発明者の支援に時間を割けないという現実があり、その結果、出願件数が極端に少ないことの現実を嘆くか、逆にいわゆる「発明提案件数の年間のノルマ」を技術部門に課すことによって一定の出願件数を強制的に確保するといったことが行われています。どちらも「知的創造サイクル」の構築からはかけ離れた方策と言わざるを得ません。
特に、ノルマで出願件数を確保するようになると、知財担当者の主な仕事は期末ごとに大量に提出される玉石混交の発明提案書を短時間で検討して「処理する」ことにシフトし、それが個々の出願の価値を低下させる原因につながるという弊害が生まれます。さらに、特許出願とは技術を公開することであり、ノウハウに属するような重要な技術情報について出願すれば当然にその内容は全て公開され、技術流出の原因ともなります。
もっとも、大量に出願したものの中には優れた発明も含まれていますので経験豊富な知財担当者はそれをいち早く見つけ出し、外国出願を検討したり面接審査を実施するなどして有力特許の取得に尽力されている方もおられます。しかし、一般的には、一人の知財担当者が処理する件数が多くなるほど「出願の価値判断」は困難になるだけでなく、限られた予算と人材を用いて一律に大量の権利化を求めるほど資金とマンパワーが分散投資され、一つ一つの出願の価値が低下します。その結果、知的創造サイクルの構築どころか、知財予算を無駄に消費するにもかかわらず有力特許は殆ど生み出されず、出願した知財による資金の回収も十分にできないという悪循環が生まれてしまうのです。
知財意識の向上
私は、企業における知的財産部門にいた経験から、企業における発明者にとって業務に占める特許出願の優先順位が下がる本当の理由は、単に日々の業務に忙しいということだけでなく、特許に対する知識と意識が必ずしも十分ではないこと、また、知財担当者が十分に発明者をサポートしきれていないということにあると考えています。勿論、技術者の中には知財意識の高い人もいます。
強調したいのは意識の高い「特定の人」を少しずつでも増やしていき、技術者全体の知財意識向上を図ることが重要であるという点です。私は、ノルマ制に一律に反対するつもりは有りませんが、優秀な知財担当者の力をもっと別な方向に向けることで上述の悪循環をたちきり、有力特許が効率よく出願される仕組みを作ることで、真に事業に貢献する「知的創造サイクル」の構築が可能になると考えています。
当事務所の役割
当事務所は、企業の知的財産部門との役割分担を明確に意識しつつ積極的な提言を行い知財部門を後方からサポートすることにより、企業の「知的創造サイクル」を真の意味で活性化させることを重要な目標の一つとしています。これを実現するために、当事務所は、出願書類作成を迅速確実に処理することに加えて、有益な発明が次々と生み出される「仕組みの構築」を手助けする提言をすることを重要な目標としている点で、他のいくつかの特許事務所と異なっています。
当事務所は「戦略型特許事務所」として、クライアント企業様と共に成長しつづけ、長期にわたる強固な信頼関係を築いていくことを望んでおり、当事務所の活動がクライアント企業様の「知的創造サイクル」構築の一助となり、ひいては我が国の産業発達に少しでも貢献できれば幸いです。
スタートアップ企業・中小様向け様へのメッセージ
「事業はヒト・モノ・金・情報」と言われますが、人的資源と資金が無尽蔵に使える事業体は存在しません。ただ、大手企業と比べれば、スタートアップ企業・中小企業ほど、その条件は不利と言わざるを得ません。資金的に十分な余裕があれば、採算を度外視してシェアを獲得するといったことも可能になります。しかし、大企業といえども創業当時がありました。数人のメンバーからスタートして、グローバル企業に成長したのです。知的財産権は、あらゆる事業体にとって、大企業と互角に戦うツールとなるだけでなく、経済的価値を持つ大きな資産となりうるものです。会社に守るべき知的財産権があれば、それらを保護し、活用することが経営に直接貢献するということを知ることは、非常に大切なことと思います。
我が国の産業構造は、少数の大企業を大多数の中小企業が支える構造をしていると言われています。その中小企業の中で、経営効率が高く安定した業績を維持する企業の多くは、知的財産権を活用し事業に貢献しているという報告例もあります。
スタートアップ企業にとっては、出口戦略がどのようなものであれ、知的財産権の活用が事業成功の鍵となります。知的財産権はツールであり、それをどのように獲得し、活用するかを決めるのが、知財戦略となります。
当事務所は「戦略型特許事務所」として、クライアント企業様と共に成長しつづけ、長期にわたる強固な信頼関係を築いていくことを望んでおり、当事務所の活動がクライアント企業様の「知的創造サイクル」構築の一助となり、ひいては我が国の産業発達に少しでも貢献できれば幸いです。