日本初、SEP差止命令──Pixel 7判決の意義と今後の実務

2024年6月、東京地裁は、韓国パンテックが保有する無線通信の標準必須特許(SEP)を侵害したとして、グーグル日本法人に対しPixel 7の販売差止めを命じる判決を下した。日本でSEP侵害を理由に差止めが認められたのは初めてであり、知財実務において画期的な判断である。

本件の争点は、Pixel 7が4G通信規格に不可欠なSEPを侵害しているかどうか、そして権利者パンテックによる差止請求が認められるかどうかにあった。
従来、日本ではFRAND宣言(公正・合理的・非差別的ライセンスの確約)をしたSEPについては、「誠実なライセンス交渉が行われていれば差止めは認められない」とされてきた。これは2014年知財高裁大合議判決(サムスンvアップル)以降の実務運用によるものである。

しかし今回は、グーグル側が和解勧告後もライセンス料算定に必要な情報を開示せず、交渉に非協力的な対応を取ったことが決定打となった。
裁判所は「ライセンスを受ける意思があるとは認められない」と明確に判断し、権利濫用の抗弁も排斥。結果、パンテックの差止請求が認容されるに至った。

この判断は、近年欧州のUPC(統一特許裁判所)やドイツ連邦通常裁判所(BGH)等で積み上がる「FRAND交渉の誠実性を重視した差止判断」と同様の方向性を示すものであり、日本の実務が国際標準に歩調を合わせつつあることを象徴している。

もっとも、今回の判決はPixel 7(既に生産終了モデル)を対象としたものであり、実際のビジネスインパクトは限定的である。ただし、パンテックはすでにPixel 8以降のモデルについても仮処分申立を行っており、今後の展開が注目される。

**企業実務上は、FRAND交渉における誠実な対応と、情報開示の重要性がこれまで以上に問われる時代となる。**特に標準技術に依存するメーカーにとっては、国際的な訴訟リスクを見据えたライセンス戦略の再点検が急務であろう。

【参考】