【米国判例紹介】EcoFactor v. Google事件(CAFC大法廷 2025年)
― 損害額の専門家証言が却下された理由とライセンス契約実務への示唆 ―
2025年5月、米連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、EcoFactor社がGoogleを相手取って提起した特許侵害訴訟において、損害賠償に関する地裁判断を破棄し、審理を差し戻した。本件は、専門家証言の信頼性やライセンス契約の解釈、裁判官の役割など、ライセンス実務に関わる代理人にとって重要な論点を含む。
1. 背景
EcoFactorはスマートサーモスタット技術に関する特許を保有し、Googleの「Nest」製品がこれを侵害しているとして訴訟を提起した。Googleとはライセンス契約が存在しないものの、EcoFactorは第三者との過去のライセンス契約に基づき、「1製品あたりXドル」のロイヤルティ率が確立していると主張した。
2. 地裁判断
EcoFactorの専門家は、過去の一括支払契約が1製品あたりXドルに相当すると証言し、陪審はこれを受け入れて約2,000万ドルの損害賠償を認定した。
3. CAFC判断
CAFCは、過去の一括支払契約に関する専門家証言がEcoFactorの一方的な解釈に依拠し、実質的根拠を欠くと判断した。一部契約には「単価に同意しない」との記載もあり、合意の存在は否定された。陪審に提示すべきではなかったとして、地裁の「ゲートキーパー」としての役割不履行を指摘した。
4. ゲートキーパーとは
米国の民事訴訟では、陪審員が事実を判断するが、証拠が陪審に提示される前に、その妥当性を審査するのが裁判官の役割である。特に専門家証言は、内容の信頼性が重視され、科学的妥当性がなければ排除される。
5. 今後の見通し
本件は損害額について地裁で再審理される。侵害認定自体は維持されている。EcoFactorが再度証明を試みるか、和解に向かう可能性もある。
6. 実務上の教訓
ライセンサー側代理人にとって:
一括金額に合意した場合であっても、それが単価に基づくものであるなら、その単価および合意の存在を契約書上明確に示しておくべきである。
ライセンシー側代理人にとって:
過去の契約を参考にする場合、単なる金額の記載だけでなく、単価への明示的合意があったかどうかを必ず確認すべきである。
本件は、損害額立証の困難さとともに、ライセンス契約における文言管理の重要性を改めて示すものである。
免責事項:
本記事は一般的情報の提供を目的としたものであり、法的アドバイスを構成するものではありません。本記事を読むことにより弁護士・弁理士との間に委任関係が成立するものではありません。
(参考記事)