【ブラジル商標実務】優先商標手続とスローガン登録に関する最新動向
2025年8月以降、ブラジルにおいて商標制度の運用に関する重要な変更が予定されている。以下、現地代理人からの情報に基づき、実務上注目すべき2点について整理する。
1.優先商標手続(Priority Trademark Procedure)の導入
ブラジル産業財産庁(BPTO)は、2025年8月7日より、新たに「優先商標手続」を導入する。これは、一定の要件を満たす商標出願や請願について、通常よりも迅速に審査を進める制度である。
【適用対象】
- 法律上の優先(件数制限なし)
- 60歳以上の個人
- 重篤な疾病を有する者
- 障害を有する者
- Inova Simples(スタートアップ支援スキーム)に登録された企業
- 戦略的目的による優先(申請件数に制限あり)
- 先使用権に基づく異議申立を行った者
- 公的資金の取得に際し登録が必要な案件
- 商標に関して訴訟等の法的手続に関与している者
- 優先審査中の特許と関連する商品・サービスの商標
- 公益性または国家的緊急性が認められる案件(ブラジル国内)
本制度により、従来よりも審査結果が早期に得られる可能性が高まる。ブラジルにおける商標戦略の一環として、積極的な活用が検討される。
2.スローガンの商標登録が可能に
近年の実務動向を踏まえ、ブラジルではスローガン(広告用フレーズ等)を商標として登録することが可能となった。スローガンは、他の商標と組み合わせて出願することも、単独で出願することもできる。
【登録要件】
- 公序良俗に反しないこと
- 識別力および独自性を有すること(単なる記述的・一般的表現は不可)
- 出所表示機能を有すること(商品の製造元やサービスの提供主体を識別できること)
- 他人の先行権利(商標・商号・著作権等)を侵害しないこと
【費用の目安】
- 出願料:USD 440/1クラス(自由記載方式は+USD 30)
- 同時に2件目以降を出願する場合:USD 370/件
- 登録時の最終費用および証明書発行料:USD 870
※上記費用はINPIに支払う庁費用であり、代理人費用等は別途必要となる
スローガンについても、通常の商標出願と同様、事前の簡易調査(サーチ)を推奨する。
総括
本稿で紹介した「優先商標手続」と「スローガンの商標登録」は、いずれもブラジル市場における知的財産戦略にとって有用な制度である。審査の迅速化により商標保護の確度が高まり、広告・販促活動におけるスローガンも法的保護の対象とし得る点は、ブランド価値の確立において無視できない要素となる。
具体的な事案に関する相談や出願サポートを希望される場合は、当事務所まで問い合わせいただきたい。現地代理人との連携を通じ、円滑な手続対応を提供する体制を整えている。