スローガン商標に関する世界の趨勢と日本企業の実務対応

企業や商品の印象を端的に伝える短いフレーズ、いわゆるキャッチコピーないしスローガンは、ブランド戦略上きわめて重要である。もっとも、スローガンが商標として保護されるかどうかは、単に「良いコピーかどうか」では決まらない。現在の世界的傾向は、スローガンを一律に排除するのではなく、通常の商標と同様に識別力の有無で判断する、という方向である。WIPOも、商標保護の中心は識別力にあると説明している。

ただし、ここで注意すべき点がある。理論上は通常の商標と同じ枠組みで判断されるとしても、実務上、スローガンは広告文句、称賛表現、情報伝達的表現として理解されやすい。そのため、実際に登録が認められる範囲はなお狭い。世界の主要国・地域の実務は、この点でかなり共通している。

世界の大勢は「一律不可」ではなく「識別力評価」である

EUでは、この傾向がかなり明確である。EUIPOの2025年共通実務文書は、スローガンの識別力について、通常の商標と異なる特別な基準を設けるのではなく、あくまで需要者がそれを出所識別標識として認識するかどうかを問題とする立場を整理している。その一方で、需要者はスローガンを広告メッセージとして受け取りやすいため、結果として識別力が否定される事案が少なくないことも示されている。

米国でも方向は同じである。USPTOは、ありふれた情報伝達的フレーズや一般的なスローガンについて、商標として機能していない、すなわち failure to function の問題として扱っている。要するに、スローガン一般が否定されるのではなく、その表示が出所を示すものとして受け取られるか、それとも単なるメッセージにすぎないのかが問われているのである。

このようにみると、世界の主流は、スローガンを形式的に門前払いする考え方ではない。広告機能と識別機能を切り分け、最終的には識別力の有無で判断するという方向に収れんしているといえる。もっとも、そのことは登録が容易になったことを意味しない。むしろ、広告として理解されやすいがゆえに、識別力が肯定される場面は限定されやすい。

日本でも一律不可ではないが、なお狭い

日本も、建前の上ではこの世界的傾向から外れていない。特許庁の商標審査基準は、指定商品又は指定役務の宣伝広告や、企業理念・経営方針等を表示する標章のみからなる商標について、それが普通に用いられる方法で表示されたものとしてのみ認識される場合には、商標法3条1項6号に該当するとする一方、造語等としても認識できる場合には同号に該当しないとしている。つまり、日本でもスローガン型商標が絶対に登録できないわけではない。

しかし、実務上強調すべき点は別にある。すなわち、短いスローガンであっても例外的に識別力が認められることはあるが、その範囲は基本的に狭いという点である。特許庁の審査基準ワーキンググループ資料でも、宣伝広告や企業理念等としてのみ認識される場合に識別力がないという整理が示されている。これは、日本の実務が、スローガンは通常、自他商品・役務識別標識として受け取られにくいという前提に立っていることを示している。

そのため、日本では「印象に残るコピー」であることが、そのまま「商標登録しやすいこと」を意味しない。商品やサービスの特長、品質、効能、理念、優位性を短く分かりやすく伝える表現ほど、広告としては有効であっても、商標としては識別力を欠くと判断されやすい。

ブラジルは世界的流れを明文化したものとみるべきである

以前に当ブログで紹介した近時注目されるブラジルの運用も、日本との単純比較ではなく、世界の流れの中で理解する方が適切である。ブラジルのINPIは2024年の運用見直しにより、広告的要素を含む標章について、それだけで直ちに排除するのではなく、識別機能の有無を踏まえて評価する方向を明確にした。これは、スローガンを「広告だから不可」と処理するのではなく、広告機能と識別機能の併存可能性を正面から認める方向を示したものと理解できる。

したがって、ブラジルは特殊な例外というより、主要法域に共通する「一律不可ではなく識別力評価へ」という流れを、より明示的に採った例とみるべきである。むしろ、日本企業にとって重要なのは、ブラジルが緩いか厳しいかという二国比較ではなく、世界全体としてスローガン商標がどのように整理されつつあるかを理解することである。

日本企業が実務上考えるべきこと

実務上最も重要なのは、広告として優れたスローガンと、商標として守りやすいスローガンは一致しないことが多い、という点である。ありふれた励まし文句、品質訴求、企業理念の直接表現、商品特長の短い説明は、世界の主要国でも概して厳しい。他方、語の結合に工夫があるもの、全体として一種のネーミングとして把握され得るもの、単なる宣伝文句にとどまらない独自性を持つものには、なお登録可能性が残る。

したがって、スローガンを本当にブランド資産として守りたいのであれば、完成したコピーを後から出願できるかどうかを検討するだけでは足りない。ネーミングやブランド設計の段階から、識別力の観点を織り込むことが重要である。特に海外展開を見据える企業にとっては、日本だけでなく、主要法域の共通傾向を踏まえたうえで、どの表現なら保護可能性があるかを早い段階で検討しておくことが重要である。

おわりに

スローガン商標に関する世界の趨勢は、全面的な自由化でも全面否定でもない。現在の主流は、スローガンを他の商標と切り離して排除するのではなく、通常の商標と同様に識別力で判断するという方向である。他方で、スローガンは本質的に宣伝的表現になりやすいため、実際に識別力が認められる範囲はなお狭い。日本でも例外的に登録が認められることはあるが、その範囲は基本的に限定的である。この前提に立ってこそ、守れるスローガンを設計するという発想が実務上重要になる。