米州の主権免除に関する米国最高裁判決
国際知的財産保護協会(AIPPI)本部発行のNewsletter 2020年7月号で、2020年3月23日に下された著作権侵害訴訟に関する米国最高裁判決In Allen v. Cooper, No. 18-877, 589 U.S. (2020)(※1)について紹介されていた。表題の「主権免除」がテーマだという。事実関係の詳細はフォローできていないが、調べてみると、ブログに取り上げてまとめておられる方がいたので今回は割愛する。押さえておくべきポイントは、著作権者が米国の州を著作権侵害の被告として米国連邦裁判所に提訴したが主権免除を理由に連邦裁判所で取り扱われなかったというものである。
本件で問題となる主権免除は、外国国家免除ではなく、米国憲法修正11条を背景とする州の sovereign immunity である。米国は連邦制国家であり、各州は一定の主権的地位を前提として連邦を構成している。連邦裁判所が取り扱うことのできる事件の種類は、州籍相違事件や特許権侵害訴訟などをはじめ、憲法上又は法律上認められたものに限られている。しかし、米国の州は、米国憲法修正第11条に規定される主権免除(sovereign immunity)によって、一定の例外を除き、同意がなければ裁判の被告とすることができない。
ともあれ、上記最高裁判決の判旨は、米国の州(政府)を著作権侵害訴訟の被告として、米国の連邦裁判所に訴えることができないということである。本判決は、特許に関する州の主権免除に該当するとされた過去の事例に基づき、著作権侵害訴訟に対する州の主権免除を支持する判断を示したようである。例外もあるそうだが本判決は原則通りの判断であり、かつ、著作権に関する裁判では全員一致のめずらしい判決であるという。また、著作権に止まらず、特許権も同様であると解される。余談であるが、当職は遠い昔にe-Learningの授業で米国憲法(もちろん修正第11条についても)や米国民事訴訟法を勉強したことがあるが、普段の実務で使うことはまずないため、恥ずかしながらこの主権免除については殆ど頭には残っていなかった。確かそんな話があったかなというのが正直なところである。
もっとも、ウィキペディアによれば、主権免除には、大きく分けて、国家の活動はすべて裁判権から除外されるという立場(絶対免除主義)と、国家の活動を「権力行為」と「職務行為」に分け、免除の適用範囲を前者についてのみ認めるとする立場(制限免除主義)があるとされ、わが国は、従前は絶対免除主義であったが、学説の批判や国際的な趨勢を踏まえ、現在は平成18年の最高裁判決により大審院の判例を変更して制限免除主義を採った経緯があるという(※2)。上記の判決は、特許権や著作権に関する州に対する損害賠償請求等には大きな制約があり、少なくとも通常の形で連邦裁判所に訴えられない場面があるという、冷静に考えると私見としては不合理な内容といわざるを得ない。
しかし、米国は国連裁判権免除条約(※3)の締約国でもないようであり、判例法の国である米国における最高裁判決である。従って、実務上リスク管理の観点としては今後、米国の州(州立大学や州立の公的機関等)を相手方とする特許権や著作権に関する紛争が生じても同意がなければ州を訴えることができないと考えておくべきであろう。実務上、十分起こりうる話であり、もしそうなら大変な注意が必要であると考えられる。このような事案に直面された場合、当然のことながら、米国弁護士による適切なアドバイスを受けることが重要となるであろう。事前に契約書を交わす事案であれば、予め裁判を受けることに州が同意する旨の条項を設けるなどが考えられるかもしれない。なお、本ブログは情報提供を目的とするものであり、いかなる法的アドバイスを行うものでもない点を改めてお断りしておく。
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