韓国ワクチン特許侵害訴訟判決から考える

ドワンゴ事件後の日本法は、組成物発明でも国境をまたぐ実施を捉えるべきか

以前のブログでも取り上げたドワンゴ対FC2事件の最高裁判決では、国外要素を含む実施行為に日本の特許権の効力が及ぶかが問題となった1。ネットワーク関連発明については、国外要素が含まれるからといって、直ちに日本の特許権の効力が及ばないと考えるべきではないことが示されたといえる。

これに対し、韓国大法院は2025年5月、肺炎球菌ワクチンに関する13価免疫原性組成物特許について、韓国内で13種の個別接合体原液を生産し、これを外国に輸出して外国で最終混合により完成品を製造した事案で、特許権侵害を否定した2。裁判所は、最終混合工程が単なる仕上げではなく、投入量、混合比率、混合順序、pH、温度、撹拌条件などが最終組成物の実現に影響し得る以上、国内で原液をそろえただけでは、特許発明たる組成物が国内で生産されたとはいえないと判断した。

ネットワーク関連発明と組成物発明とでは事情が異なる

この韓国判決をみると、ドワンゴ事件の考え方をそのまま組成物発明に広げてよいのか、改めて考えさせられる。ドワンゴ事件では、国外サーバと国内端末が一体として機能し、日本国内でサービスが成立するという事情が重視されていた。他方、組成物発明では、請求項の対象は完成した「物」そのものであり、その完成工程が国外に残っている場合には、国内で生産されたとみることにはなお慎重さが求められるように思われる。

日本法でも発明類型ごとの線引きが問われる

もちろん、現時点で日本法の結論を直ちに導くことはできない。ただ、ネットワーク関連発明については国境をまたぐ実施を柔軟に捉える方向がみられる一方で、組成物発明についても同じ発想を及ぼすべきかどうかは、なお検討の余地がある。韓国判決は日本法に直接影響するものではないが、ドワンゴ事件後の日本法の射程を考えるうえで、興味深い素材である。

実務の指針

いずれにせよ、組成物発明においては、完成組成物クレームだけに依拠するのではなく、中間体、原液、製造方法、用途、キット等を含め、多面的にクレームを構成しておくべきである。従来から指摘されてきたこの基本原則は、国境をまたぐ製造・供給体制が一般化する中で、むしろ重要性を増していると考える。

  1. 特許権の域外適用を認める最高裁判決(ドワンゴv.FC2事件)参照。
  2. 韓国大法院2025年5月15日宣告2025ダ202970判決については、JETRO「組成物特許発明の各構成要素を国内で生産した後外国で組成物を完成させた場合特許権の侵害を否定した事例」参照。

関連ページ