欧州特許出願の維持年金はいつから必要か――日本の特許制度との違い

日本では当然と思っている特許料の年次の数え方も、欧州特許実務と比較すると必ずしも自明ではない。実際、外国代理人とのやり取りの中で、日本の特許料における「第何年分」という表現の意味を確認される場面があった。

日本企業が欧州特許出願を検討又は管理する際、日本の感覚のままで考えると、維持年金の仕組みについて戸惑うことがある。とりわけ注意すべきなのは、日本と欧州では「第1年分」「第3年分」といった年次の意味自体が同じではないことである。日本では特許料の年次は設定登録日を基準に数えられるのに対し、欧州では出願日を基準として進行する。

日本と欧州では「第1年分」の意味が異なる

日本では、特許料の第1年分から第3年分は、特許査定(又は特許審決)の謄本送達日から30日以内に一時に納付しなければならない(特許法第108条第1項)。また、特許料は、特許権の設定登録の日から特許権の存続期間の満了までの各年について納付するものとされている(特許法第107条第1項)。ここでいう「第1年分」「第2年分」「第3年分」は、これらの規定を前提として、設定登録日を起算点として数えられる年次である。

これに対し、欧州特許制度では、維持年金の年次は出願日を基準として進行する。したがって、欧州でいう「第1年分」「第3年分」は、出願日を起算点として数えた年次であり、日本でいう「第1年分」や「第3年分」とは、同じ表現であっても意味が異なる。

欧州では出願から2年経過後に第3年分の納付義務が生じる

欧州特許出願では、第3年分から維持年金の納付義務が生じる。そして、その納付期限は、出願日の応当日を含む月の末日である。たとえば、2026年3月27日に出願した場合、第3年分の維持年金の納付期限は2028年3月31日となる。言い換えれば、出願日を起算日として2年を経過した後には、出願日を起算点とした「第3年分」の維持年金を納付しなければならない。

この点は、日本の実務感覚からすると直感に反しやすい。日本では、出願後しばらくの間は特許料の納付が問題になることはなく、特許査定を経て設定登録に至って初めて第1年分から第3年分の納付が必要になるからである。

日本では設定登録後に第1年分から第3年分を一括納付

日本では、特許査定又は特許すべき旨の審決の後、所定期間内に設定登録料を納付することによって特許権が発生する。この際、特許料は第1年分から第3年分までを一時に納付しなければならない。さらに、その後の第4年分以降も、設定登録日を基準として納付期限が決まり、複数年分をまとめて前納することも可能である。

したがって、日本でいう「第1年分」は、特許権の設定登録後の最初の年を意味する。欧州のように、出願係属中の段階で「第3年分」の納付義務が生じる制度とは、年次の起算点自体が異なるのである。

この違いは制度の違いを反映している

もっとも、この違いを単純に「欧州制度の方が出願人に厳しい」とだけ捉えるのは適切ではない。背景には、制度の構造自体の違いがある。

日本では、特許出願をしただけで直ちに実体審査が始まるわけではない。出願から3年以内に審査請求を行って初めて審査に入るのであり、審査では先行技術調査を踏まえて新規性・進歩性等が判断される。

これに対し、欧州特許制度では、出願時に調査料が課され、比較的早い段階からサーチレポート作成を含む調査業務が行われる。そのような制度の下で、庁に継続して係属している出願について、第3年分以降の維持年金を課すことには、制度設計上の合理性があると理解できる。これは本文前半でみた制度比較から自然に導かれる整理である。

日本企業にとっての実務上の意味

日本企業にとって重要なのは、欧州特許出願では、日本国内出願と同じ感覚で費用計画を立てることができないという点である。日本では、出願後しばらくは審査請求をするかどうかを見極める余地があり、その間に特許料負担は生じない。他方、欧州では、まだ権利化されていない段階でも、出願から2年を経過した後には第3年分の維持年金の納付義務が生じる。

しかも、「第何年分か」という表現自体が、日本と欧州では異なる基準で用いられている。そのため、各国代理人とのやり取りにおいて「第3年分」「第8年分」などの表現を見たときは、その年次が何を起算点として数えられているのかを確認することが重要である。

おわりに

維持年金制度の違いは、単なる料金体系の違いではない。日本では設定登録日を基準として特許料が管理され、欧州では出願日を基準として維持年金が進行する。この違いは、各庁が出願後のどの段階でどの程度の審査・調査コストを負担する制度になっているかという、制度の基本構造の違いを反映している。

欧州特許出願を検討する際には、単に金額だけでなく、いつの時点から、どの基準で費用負担が発生するのかを正確に理解しておく必要がある。

特許権の維持年金の納付期限

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